演劇的手法の研究授業

2018/11/30@京都
演劇的手法を取り入れた授業の研究発表会で、八幡市立美濃山小学校へ行ってきました。
この小学校は平成29・30年度「学力向上システム開発校」として京都府教育委員会の指定を受けており、公開研究発表会は今回で2回目です。

研究テーマに「表現活動を取り入れた主体的・対話的な授業の創造」を掲げ、「表現しながら理解を深める学習者を育てる」ことをめざしています。

研究主任の藤原由香里さんは、NPO法人グラスルーツで一緒に理事をしている方で、インプロや演劇的手法については彼女から多くを学ばせていただいています。

今回は支援学級の国語「スーホの白い馬」の導入部分と、1年生の国語「ずうっと、ずっと、大すきだよ」、そして6年生の道徳「わたしのせいじゃない」を参観させていただきました。

小道具をうまく使いながら、教材にふさわしい演劇的手法を取り入れて、こどもたちが心・からだ・そして思考も、めいっぱい動かしている様子が印象的でした。
また、安心して表現活動ができるように、ふだんの関係づくり・学級づくりが意識されていることも同時に感じました。

特に引き込まれたのは「ティーチャー・イン・ロール」という手法です。
先生自身が物語の端役に扮して、主役の生徒の気持ちを引き出したり、語らせたりします。
私もこれまで何度か挑戦しましたが、どうもうまくできた感じがしなくて悩んだ経験があります。

今回1年生の国語で使った教材「ずうっと、ずっと、大すきだよ」は、主人公の「ぼく」が飼っていた犬のエルフが、成長し年老いて、やがては死んでしまうお話です。
いたずら好きのエルフは周りの人たちを困らせますが、「ぼく」はエルフが大好き。その理由を考えさせるために「ティーチャー・イン・ロール」が用いられました。

先生が近所のおばさんに変身して、「ぼく」になった子どもたちにたずねます。
「あんないたずら好きの困った犬なのに、どうしてそんなにエルフが好きなのか、おばさんに教えてくれる?」

美濃山小学校ではこの活動を「なるほどタイム」と呼びます。
こどもたちは、近所のおばさんが「なるほど」と言うまで、エルフのどんなところが好きなのかを次々に話してくれました。

「ぼく」になって考えることで、こどもたちは自分の気持ちとして話せるようです。また、話す相手は先生ではなく近所のおばさんなので、正解・不正解を気にせず発言できます。
教科書を読んで考えるだけでは、ここまで活発な言語活動はできないでしょう。

授業参観後の分科会では、こどもたちが受けた授業の一部を追体験する試みがなされました。参観した私たちが実際に授業を受けて「学習者になってみる」という演劇的手法を取り入れた研修です。ただ見ている時とは違った感覚を体験しました。

この学校では、先生方の授業研究の方法そのものが演劇的手法となっており、指導案の試作段階で実際に動いてみる他、指導案作成後の模擬授業、さらに実際の授業後に追体験することで、3回も「学習者になってみる」体験をされているそうです。
そのようにして学校オリジナルの手法がいくつも生み出されました。

分科会が終わり、しめくくりは全体会です。
先生方の研究の様子をスキットで見せていただき、前回からさらにパワーアップした結束力をひしひしと感じました。

最後はアドバイザーの渡辺貴裕先生によるミニ講義です。渡辺先生は、東京学芸大学教職大学院准教授で、演劇的手法を取り入れた授業づくりを研究しておられます。

演劇的手法を取り入れる目的と効果についてお話してくださいました。

演劇的手法を取り入れることで、自分の感覚を働かせた学び方ができる、そこには実際にないものを、自分の感覚を働かせて感じることができる、その例としてバーチャル大縄跳びを実際に行いました。

2人の人が大縄を持っているつもりで腕を回し、それを1人ずつ跳んでいきます。
見えない縄が見えるだけでなく、実際に体を動かすことで、ある感情が起こります。「やったー、跳べた!」「うわぁ、引っかかったー!」など。
これこそが想像力。
想像力は頭の中の産物ではなく、空間と身体を使って生み出され、それは物語を演じる場合も同じということでした。

演劇的手法を用いる際に大切なことは、教師自身も学び手としての感覚を持って(=空間と身体を使って)授業を作る「同型性」であるといいます。
教師は、こどもが自分の感覚を働かせているかどうかを感じる鋭敏性を持つことが求められ、こどもを架空の状況の中に立たせるには、教師自身がその状況に立つ必要があるからです。

演劇的手法は思考ツールの1つです。
まず理解したことを演じるのではなく、実際に何かになってみることで理解が進み、その理解がさらに表現を広げる…表現と理解が双方向に働きます。
英語学習という領域で、こどもたちが表現しながら学ぶことの楽しさを知ってもらえるように、私もさらに学びたいと思いました。